公益通報者保護法の改正について
弁護士 安部 史郎
企業不祥事は、事業者内部の労働者からの通報をきっかけに明らかになることが少なくありません。公益通報者保護制度は、特に国民の生命、身体、財産等の利益を脅かすことになる事業者の法令違反を通報した事業者内部の労働者を保護し、法令遵守を図って、国民生活の安定や社会経済の健全な発展に資することを目的とするものです(公益通報者保護法1条参照)。
その趣旨を徹底するため、退職後1年以内の退職者や役員(ただし、通報前に原則として通報対象事実の調査およびその是正のために必要な措置をとるよう努めることが必要。法6条2号、3号)を追加し(法2条1項)、通報に伴う損害賠償請求の免除を追加する(7条)などの法改正がされ、令和4年6月1日より施行されています。
当該改正のうち、事業者にとっては、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付けられた点が重要であり、本稿で、その留意点を示します1。
事業者は、公益通報を受け、当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとるという「公益通報対応業務」に従事する者を、「公益通報対応業務従事者」(従事者)として指定して(法11条1項)、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を行うことが義務付けられました(法11条2項)。
なお、従業員数300人以下の中小事業者については、努力義務に留まっています。
事業者が行うべき体制整備等については、指針に明記されており、下記のような対応が求められています。
- @内部公益通報受付窓口を設置し、対応、調査及び是正措置を行う部署や責任者を定めたうえで、調査を実施し、法令違反行為があった場合には、是正措置をとる。
- A公益通報者が不利益な取扱いを受けないようにし、範囲外共有や通報者の探索が行われないようにする。
- B法や公益通報体制について教育・周知し、是正措置の実施あるいは調査結果としての違法事実の不存在を、通報者に通知する。記録の保管や内部規程の策定を行う。
事業者としては、まず、上記の体制を定めた内部規程を策定することになるでしょう。消費者庁のウェブページで公表されている2022年1月付「内部通報に関する内部規程例(遵守事項+推奨事項版)」及び「内部通報に関する内部規程例(遵守事項版)が参考になりますが、その中でも、とりわけ「従事者」に関する定めについても理解が重要です。
(1)「従事者」とは、公益通報対応業務を行う者で、公益通報者を特定させる事項を伝達される者とされています(指針第3-1)。従事者は、公益通報者を特定させる事項の守秘を義務付けられ(法12条)、義務違反に対して刑事罰も導入されています(法21条)。
(2)それでは、事業者は、誰を従事者に指定すればよいでしょうか。「内部通報に関する内部規程例(遵守事項+推奨事項版)」及び「内部通報に関する内部規程例(遵守事項版)を比較検討すると、次のようになっており、これらを参考に自社に当てはめていくことになるでしょう。
窓口 | 調査 | 是正措置 | ||
---|---|---|---|---|
遵守事項版 | 内部窓口 | 総務担当取締役 総務部長 |
総務担当取締役総務部長 関連部門の従業員 |
総務担当取締役及び総務部長から調査指示を受けた者 |
外部窓口 | X 法律事務所の担当弁護士 | |||
遵守事項+推奨事項版 | 内部窓口 | コンプライアンス部 監査役 |
コンプライアンス部員 関連部門の従業員 監査役 |
代表取締役社長 担当役員 法令等遵守担当者 |
外部窓口 | X法律事務所 Y社 |
(3)内部通報された事案のうち、「組織の長その他幹部」に関係するものについては、独立性を確保する措置をとることが求められていることから(指針第4-1(2))、従事者となる内部窓口や調査担当者として監査役を定めるか、監査役と協議する事項を設けるなどの工夫が求められます。
(4)事業者は、従事者を定める際に、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めることが求められます(指針第3-2)。
窓口担当者や、調査グループの従業員については、予め包括的に従事者指定します。
一方、調査業務を行うことで公益通報者を特定させる事項を伝達される場合等においては、事案毎に個別に指定することになります。
(5)従事者が、ハラスメントの相談窓口などその他の窓口と兼ねることは可能ですが、公益通報の受付業務は刑事罰付きの守秘義務を負うことに注意が必要です。
また、匿名の通報も可能ですが、匿名であるがゆえに連絡ができない懸念はあり、連絡手段を確保できないか、通報者と協議することが必要です。
1 以下、公益通報者保護法を「法」、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)を「指針」といいます。
以上