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コラム

監査等委員会設置会社の創設〜会社法改正

弁護士 澤田和也

1. はじめに

 改正法では,監査等委員会設置会社という新しい機関設計が認められました 。監査役会を置かないで,取締役会の組織として監査等委員会を設け,取締役である監査等委員会の委員が監査をするものです。指名委員会等設置会社(従来の委員会設置会社です。)と異なり,指名委員会及び報酬委員会の設置は義務づけられていないため,これらを設置することに対する抵抗感があった会社においても採用が可能です。従来の監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間形態といってよいでしょう。イメージ図は次のとおりです。

2. 最低2名の社外取締役で済む

 監査等委員会は,監査等委員である取締役で組織されます(改正法399の2条1項,2項)。取締役の人数は3人以上で,その過半数は社外取締役でなければなりません(改正法331条6項)。したがって,最低2名の社外取締役を用意することになります。

 監査役会設置会社においては,監査役の人数は3人以上で,その過半数は社外監査役でなければならなかったのですが(法335条3項),これに加えて社外取締役を選任しなければならないとすると,社外役員を最低3名用意しなければなりません。これに対して,監査等委員会設置会社では,社外役員は最低2名で済むことになります。このように監査等委員会設置会社は,コスト面での優位性があるといえますし,冒頭に述べた機能面での重複もなくなります。

3. 選任及び任期はどうなるのか

 監査等委員会設置会社においても,取締役は株主総会の決議によって選任しますが,監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任します(改正法329条2項)。

 監査等委員でない取締役の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち,最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり,定款又は株主総会の決議によって短縮できます(改正法332条3項)。

 これに対して,監査等委員である取締役の任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち,最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり,定款又は株主総会の決議によって短縮できません(法332条4項)。

4. 常勤の監査等委員は必要か

 常勤の監査等委員の選任は義務づけられておりません。したがって社外取締役のみで組織することも可能ですが,常勤の監査等委員を置いたほうがよいと思われます。

 社外取締役の情報収集が十分にできるかどうかの問題は,監査等委員会設置会社プロパーの問題ではなく,社外取締役一般の問題ですが,社外取締役に期待されている機能を十分に発揮させるには,十分な情報の提供が必要であり,監査の実効性を高めるためには,常勤の監査等委員を置くことが適切と考えられるからです。

5. 監査等委員会の権限

 監査等委員会には,監査役会設置会社における監査役会及び指名委員会等設置会社における監査委員会と同様,@取締役の職務執行の監査及び監査役報告の作成(改正法399条の2 3項1号),A会計監査人の選任及び解任,不再任に関する議案の内容の決定(改正法399条の2 3項2号),B取締役等に対する報告徴収又は調査(改正法399条の3)の権限がみとめられています。

 これらのほかに,特徴的なものとして,監査等委員会に対して,C監査等委員以外の取締役の選任・解任及び報酬について,意見を決定・陳述する権限が付与されています(改正法399条の2 3項3号,改正法342条の2 4項,改正法361条6項)。指名委員会等設置会社においては,指名委員会及び報酬委員会に決定権限がありますが(法404条1項,3項),監査等委員会設置会社において決定権限を監査等委員会に認めないながらも,意見を決定し,意見を株主総会で陳述する権利を持たせ,監査等委員以外の取締役に対する監督機能をもたせようとしています。

6. 監査等委員会設置会社における業務執行の決定

 監査等委員会設置会社の取締役会は,経営の基本方針や内部統制システムの整備を決定し,取締役会の職務の執行の監督及び代表取締役の選定及び解職の職務を行わなければなりません(改正法399条の13 1項ないし3項)。また,次の場合を除き,監査役会設置会社におけると同様,重要な財産の処分及び譲受け,多額の借財など,改正法399条の13第4項に定める事項を代表取締役等に委ねることができません。

 しかしながら,取締役の過半数が社外取締役である場合,又は定款の定めがある場合には,取締役会の決議により,業務執行の決定を,指名委員会等設置会社における執行役に対するものと同程度に,大幅な委任が可能となり,機動的な意思決定が可能となります。この点は,監査等委員会設置会社の大きなメリットとなります。

7. まとめ

 以上のとおり,監査等委員会設置会社の監査等委員会は,単に監査役会設置会社の監査役会の権限・機能を移したものではなく,上記3,5及び6等,独自の色合いを持つ新しいガバナンスの形態として,位置づけることができます。貴社においても,一度ご検討されてはどうでしょうか。

「会社法の見直しに関する要綱案」の段階では,「監査・監督委員会設置会社」と仮称されていましたが,ここでいう「監督」の意味が明確でないことから,「監査等」という名称になったようです(商事法務2040 P20 坂本三郎氏発言)。

とくに上場会社においては,社外監査役が置かれていても,外国人投資家には評価されにくく,社外取締役の設置を進める流れになっています。改正法は,上場会社等(規律の対象となる会社は,@公開会社であり,かつ大会社である監査役会設置会社であって,Aその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない,株式会社です。)で,社外取締役を置いていない場合には,定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明するよう求めています(改正法327条の2)。しかしながら,社外取締役と社外監査役はその機能面で重複するのではないか,社外の人材を確保することは容易ではない等の問題点も指摘されるところです。

監査等委員である取締役の任期が,監査等委員でない取締役の任期よりも長い理由は監査等委員である取締役の地位を強化するためであり,また監査役の任期よりも短い理由は取締役として業務執行に関わるからであると考えられます。

常勤の監査等委員を置かない場合には,事業報告でその理由を記載すべきとの法務省令が定められることが検討されているようである(商事法務2040 P22 仁科秀隆氏発言)。

監査等委員会による監査の方法は,指名委員会等設置会社における監査委員会と同様に,内部統制システムを利用した組織的な監査(内部統制システムが適切に構築・運営されているかを監視し、内部統制部門に対して具体的な指示を出すこと)を想定されています。

株主総会において,いかなる形で意見陳述を落とし込むかは,今後固まっていくと思われます(商事法務2040 P23 斎藤誠氏発言)。

その事項とは,@重要な財産の処分及び譲受け,A多額の借財,B支配人その他の重要な使用人の選任及び解任,C支店その他の重要な組織の設置,変更及び廃止,D社債の募集に関する重要な事項,E役員等の会社に対する責任の免除です(改正法399条の13第4項)。

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