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コラム

自筆証書遺言の保管制度について

弁護士 長森 亨

 自筆証書遺言書の保管制度は、令和2年7月10日から開始された新たな制度で、法務局(遺言書保管所)に自筆証書遺言を預けることができる制度です。
 自筆証書遺言には、自署する能力があれば1人で簡易に作成できるメリットがある一方で、紛失や相続人による改ざんのおそれなどのデメリットもありました。
 そこで、自筆証書遺言のメリットを損なわず、デメリットを解消するための方策として遺言書の保管制度が新たに創設されました。

 本制度を利用することにより、遺言者は自筆証書遺言を長期間適正に保管してもらうことができます(保管期間:遺言書原本は遺言者の死亡後50年間、遺言書の画像データは遺言者の死亡後150年間)。
 また、相続人は家庭裁判所の検認を受けることなく、遺言書保管所が発行する遺言書情報証明書の交付を受けて相続手続等に利用することができます。

1. 利用方法の概略

(1)保管の申請

本制度の申請方法の概略は以下のとおりです。

@自筆証書遺言書の作成
 民法968条が定める法律上の要件(全文、日付及び氏名の自署、押印等)を備えることのほか、本制度の利用に当たっては、A4の白紙に所定の余白を設けて作成するなどの様式を備える必要があります。詳細は法務省のホームページやパンフレットをご確認下さい。

A保管の申請をする遺言書保管所を決める
 保管の申請ができるのは、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
 遺言書保管所は法務大臣が指定する法務局が担いますが、全ての出張所、支局が指定されているわけではありませんので、遺言書保管所となっている法務局については法務省のホームページ等でご確認下さい。

B遺言書の保管申請書を作成する

C保管の申請の予約をする
 専用ホームページ、電話、申請予定の法務局窓口で予約する。

D保管の申請をする
 予約者本人が遺言書保管所に赴いて申請を行います。
(持ち物)
 遺言書、保管申請書、添付書類(本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等)、顔写真付き本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証またはパスポート)、手数料3,900円

E保管証を受け取る
 保管証には、遺言者の氏名、生年月日等のほかに保管番号が記載されており、各種手続の際に保管番号があると便利です。

(2)保管の撤回

 遺言書の内容を変更したい場合や保管自体を取りやめたい場合は、撤回書を作成して、撤回の予約の上、遺言書保管所で保管を撤回して遺言書を返してもらうことができます。
 保管の申請の撤回に手数料はかかりません。

(3)遺言者による遺言書の閲覧

 遺言者は、いつでも閲覧の請求をして、遺言書保管所で保管されている遺言書の内容を確認することができます。閲覧の方法は、モニターによる遺言書の画像等の閲覧と遺言書原本の閲覧があります。
 閲覧するには、閲覧請求書を作成し、閲覧請求の予約の上、遺言書保管所で閲覧をすることができます。

モニターによる閲覧 全国すべての遺言書保管所で可能
手数料は1回につき1,400円
原本の閲覧 原本が保管されている遺言書保管所で可能
手数料は1回につき1,700円

 なお、遺言者以外の者が相続開始前に遺言書の保管の有無を確認することはできません。

(4)遺言者死亡時の指定者通知について

 遺言者は、遺言書の保管の申請をする際に、自己の死亡時に遺言書が保管されている事実を通知する者を3名まで指定することができます。この指定をした場合、遺言書保管官が戸籍担当部局と連携して遺言者の死亡の事実を確認した場合に、指定された者に対して、遺言書が保管されている旨が通知されます。この指定をしておくことで、仮に遺言者が遺言書を遺言書保管所に保管していることを誰にも伝えないままなくなった場合でも、指定者通知によって指定された者に保管の事実が伝わることになります。

 なお、遺言者は相続人、受遺者等及び遺言執行者等(以下「相続人等」といいます。)以外の者を指定することができますが、相続人等以外の者は保管されている遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付は受けられませんので注意が必要です。

2. 相続開始後の手続の概略

(1)相続人等による保管の有無の確認(証明書の請求)

 相続開始後は、全国すべての遺言書保管所で、遺言書保管事実証明書の交付を申請することで、自筆証書遺言の保管の有無を確認することができます。
 この請求は誰でもすることができますが、請求者が相続人、受遺者又は遺言執行者等でない場合、「保管されていない」旨の証明書が発行されます。

 請求者が相続人、受遺者又は遺言執行者等の場合で、遺言書保管書に遺言書が保管されている場合、その旨を証明する証明書が発行されます。この場合、さらに後述の情報証明書の交付や閲覧を請求することで、遺言書の内容を確認することができます。
 手数料は申請書1通につき800円です。

(2)相続人等による遺言書の内容の確認(証明書の請求)

 相続開始後、相続人等は、全国すべての遺言書保管所で、遺言書情報証明書の交付を請求して、遺言書保管所に保管されている遺言書の内容の証明書を取得することができます。
 遺言書情報証明書は、遺言書そのものではなく、遺言書の内容等の情報を証明する書類ですが、遺言書に代わるものとして、相続登記や各種の相続手続に利用することができます。
 また、家庭裁判所の検認を受ける必要はありません。
 手数料は申請書1通につき1,400円です。

(3)相続人等による遺言書の内容の確認(閲覧の請求)

 相続開始後、相続人等は、全国すべての遺言書保管所で、遺言書保管所で保管されている遺言書を閲覧して内容を確認することができます。
 閲覧の方法は、モニターによる遺言書の画像等の閲覧と遺言書原本の閲覧があります。
 閲覧するには、閲覧請求書を作成し、閲覧請求の予約の上、遺言書保管所で閲覧をすることができます。

モニターによる閲覧 全国すべての遺言書保管所で可能
手数料は1回につき1,400円
原本の閲覧 原本が保管されている遺言書保管所で可能
手数料は1回につき1,700円

(4)関係遺言書保管通知について

 相続人等のうちの誰か一人が遺言書保管所において遺言書の閲覧をし、又は遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人等全員に対して、遺言書が遺言書保管所に保管されている旨の通知(関係遺言書保管通知)が届くことになっています。
 したがって、本制度を利用した場合、遺言書の検認が不要であるとしても、一部の相続人に遺言書の存在を秘匿したまま自筆証書遺言を利用することはできないことに留意が必要です。

3. 本制度利用のメリットについて

(1)遺言者のメリット

  • 自筆証書遺言の法定要式を備えているかを遺言書保管所で確認してもらうことができる(遺言書の内容の相談や確認をしてもらうことはできませんので、心配がある場合には弁護士等の専門家に相談する必要があります)。
  • 自筆証書遺言の紛失などを防止することができる。
  • 指定者通知の制度により、生前に相続人等に伝えていなくても、自筆証書遺言があることを遺言書保管所から通知してもらうことができる。

(2)相続人等のメリット

  • 家庭裁判所に検認の申立てをしなくて良い
  • 同居親族等による改ざん等を心配する必要がない
  • 遺言書情報証明書を複数通取得できるため、各種の相続手続を同時に並行して行うことができる。

以上

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